共和党全国大会に先立ち政策綱領を発表/議席差がわずかでもオールレッドなら財政調整法案で立法が可能

7月15~18日に開催される共和党全国大会に先立ち政策綱領(※1)を党の委員会が承認した。WI州ミルウォーキーで開かれる党大会で正式に採択される予定だ。16ページほどの資料だが、オールレッド(トランプ大統領当選、上下院で共和党が多数党)が実現したら即座に実行する20の約束が最初に書かれている。

  1. 国境を閉鎖。不法移民の入国を禁止する。
  2. 米史上最大規模の不法移民強制送還を実行。
  3. インフレを収束させ、手頃な価格に戻す
  4. 世界で圧倒的なエネルギー生産国にする
  5. 米国の製造業を復活させる
  6. 大規模な減税とチップへの課税を廃止
  7. 合衆国憲法に明記された自由・権利を守る(言論の自由、宗教の自由、武装権を含む)
  8. 第三次世界大戦を防ぎ、欧州と中東に平和を取り戻す
  9. 連邦政府のWEAPONIZATIONを終わらせる
  10. 不法移民による犯罪防止し、麻薬カルテルを解体しギャングを国外追放
  11. ワシントンDCを含む都市を安全で清潔に再生する
  12. 世界で最強の米軍
  13. 世界の基軸通貨としてドルを維持
  14. 社会保障とメディケアを保護し、削減をしない
  15. EV義務化を撤廃し、規制を削減する
  16. 過激なジェンダーイデオロギーをはじめとした不適切な人種、性的、政治的内容を子供たちに教える学校に連邦資金を停止
  17. 男性を女性のスポーツから排除
  18. ハマスを支持する過激派を一掃し、キャンパスを安全で愛国的な場所へ
  19. 複数の管轄区の同日選挙、有権者証明書など選挙の安全性を確立。
  20. 記録的な成功を実現し、アメリカを団結させる

20の約束が書かれた後には、10の項目の目次がある。この目次の大項目に沿って気になるところをピックアップして翻訳する。

1.  DEFEAT INFLATION, AND QUICKLY BRING DOWN ALL PRICES.

・石油ガス生産における規制をすぐに解除し、グリーンニューディールを終わらせる。原子力発電を含めたあらゆるエネルギー生産を活性化させ、手ごろなエネルギー価格を実現する。圧倒的な世界最大のエネルギー生産国を目指す。
・無駄な政府支出を削減する
・トランプ政権時代に実施した政策を復活させることで、各世帯11,000ドルの節税が実現する。
・国境を封鎖し、不法移民を国外追放することで、医療・教育・住宅費用を下落させる。
・世界中で起きている混乱を収束させて、地政学リスクを低減することで商品価格を下落させる。

2.  SEAL THE BORDER, AND STOP THE MIGRANT INVASION

・トランプ政権時代の国境政策を復活させる。
・国境の壁建設を完成させる。
・海外に駐留している米軍を南部国境に駐留させることも視野にいれている。
・フェンタニルを国内に持ち込ませないように米海軍を導入し、船舶にフェンタニルがないかどうか検査する。
・不法移民を減少させるために、トランプ政権時代に導入した「メキシコ待機」プログラムを再開させる。
・1798年に立法した外国人・治安諸法(Alien Enemies Act)を発動し、不法滞在しているギャングを国外追放する
・米史上最大の不法移民の強制送還プログラムを開始する。
・既存の連邦法を法的根拠としてキリスト教を忌み嫌う共産主義者・マルキスト・社会主義者を国外追放する
・jihadists(イスラム過激派)が入国できないように厳格な入国審査を行う
・米国人労働者を最優先する合法的移民制度を確立する。

3. BUILD THE GREATEST ECONOMY IN HISTORY

・雇用、自由、イノベーションを妨げ、インフレを引き起こす規制を撤廃
・トランプ減税を恒久化し、チップへの課税を廃止
・中央銀行のデジタル通貨に反対。暗号資産をマイニングする権利を守り、全てのアメリカ人がデジタル資産を自己で保管し、政府の監視と管理なしに取引する権利を確立させる。
・AIのイノベーションを妨げる規制を撤廃。Free Speech と人類の繁栄に根差した開発を支持。
・宇宙飛行士を月や火星に送り、商業宇宙部門の急速な拡大を促進させる。

4. BRING BACK THE AMERICAN DREAM AND MAKE IT AFFORDABLE AGAIN FOR FAMILIES, YOUNG
PEOPLE, AND EVERYONE

・住宅購入を支援。連邦政府が所有する土地を住宅建設に一部開放し、税制優遇措置と初回購入者を実施。住宅コストを引き上げる規制も撤廃。
・高等教育の学費負担を緩和させるため、4年制大学の学位に代わる手ごろな選択肢を創設
・手ごろな医療費を実現させる。競争を促進し、新しい手頃なヘルスケアと処方薬の選択肢へのアクセスを拡大します。メディケアを継続する。

5. PROTECT AMERICAN WORKERS AND FARMERS FROM UNFAIR TRADE

・Trump Reciprocal Trade Act(輸出国がある製品に対して課している関税率と、同じ関税率を米国輸入時にも課す法案 ※2)を議会と協力して可決させ、外国製品に関税をかける。
・中国の最恵国待遇(MFN)を取り消す。必要不可欠な製品も段階的に輸入を停止していく。
・中国が米国の不動産、企業を買うことを阻止
・米国の自動車産業の復活。中国車(Chinese vehicles)の輸入禁止。
・米国製品の購入と米国人の雇用政策を強化し、米国人以外を雇用する企業とは連邦政府との取引を禁ずる。
・米国の製造業を復活させ、雇用を創出する。

6. PROTECT SENIORS

・不法移民をメディケアに加入させない。メディケアは削減しない。
・プライマリ・ケアへのアクセスを拡大し、高齢者が活動的で健康的な生活を支援する。

7. CULTIVATE GREAT K-12 SCHOOLS LEADING TO GREAT JOBS AND GREAT LIVES FOR YOUNG PEOPLE

・連邦政府の教育省を閉鎖。各州が教育制度を運営するように戻す
・トランプ政権が実施した愛国的な教育を促進するための「1776委員会」を復活

※9つほど小項目が掲げられているが割愛します。

8.  BRING COMMON SENSE TO GOVERNMENT AND RENEW THE PILLARS OF AMERICAN CIVILIZATION

・警察署に人員を補充し、秩序を取り戻す
・ワシントンDCに対する連邦政府の管理を強化
・ホームレスになっている退役軍人の保護、退役軍人の医療アクセスを拡大。
・急進左派のアクレディテーション機関の認証を取り消し、差別をおこなう大学に対して訴訟を起こす
・反ユダヤ主義者を非難する。

9. GOVERNMENT OF, BY, AND FOR THE PEOPLE

・最高裁判所判事は9名を維持する。
・言論の自由を守る。
・信仰の自由を守る。アメリカにおけるキリスト教徒に対するあらゆる違法な差別、嫌がらせ、迫害を調査。反キリスト教勢力に対処するためのタスクフォースを立ち上げる
・妊娠後期の中絶に反対。後期の中絶には反対するが、避妊具へのアクセス、および体外受精は支援する。生殖に関する権利は、各州が決める。
・女性スポーツから男性を締め出し、性転換手術への税金投入を禁止し、税金で運営される学校が性転換を推進するのを禁止。

10. RETURN TO PEACE THROUGH STRENGTH

・防衛産業基盤を復活させ、軍人に高い給与を支払うようにする
・イスラエルを支持し、中東に平和をもたらす
・欧州に平和を取り戻すことによって、同盟関係を強化。
・米国の安全保障にかかわる製品は、米国産にする
・サイバー攻撃から国家の重要なインフラと産業基盤を守る


20の約束に沿って目次が書かれていると思いきや、「EVの義務化を撤廃」「基軸通貨としてのドルを維持」とか具体的にどうするか全く出てこない…。ちぐはぐ感が否めないし、10個の項目内に書かれていることも整理しきれていないように感じる。トランプ氏は全ての輸入品に一律10%の関税、中国には60%の関税と発言していたが、具体的な数値までは書かれなかった。
Agenda47で掲げていたESG投資を大統領令で禁止し、立法化するという政策も政策綱領から除外された。

オールレッドになったとしても、議席差はわずか。財政調整法案で進めることは可能。

繰り返し書いているが、2024年連邦議会選挙は選挙区割りと再選になる上院議席数は民主党の約半分というアドバンテージが共和党にある。そのため、上下院で共和党は多数党になるはずだ。 大統領選はトランプ氏の副大統領候補次第ではあると思うが、仮にオールレッドになったとしても、大勝ではない。
上院は勝てたとして51~53議席だ。下院もギリギリ過半数といったことだろう。そうなると、共和党上院はフィリバスターを突破できる60票を持ち合わせていないため、基本的に立法は共和党だけの思い通りにいかないだろう。

しかし、「財政調整措置」を利用すれば、上院に必要な票は過半数(50票)で済み、立法できる。
財政調整措置を使えば、なんでもできるかというとそうではない。
細かい基準が数多あるのだが、大きく4つをクリアする必要がある。
①財政調整法が適用されるのは、義務的経費のみ。
義務的経費とは、 国債費、年金・医療といった社会保障費、国家公務員の給与や退職年金などのようにすでに政府に支出が義務付けられている経費をさす。
逆に、国防費は裁量的歳出に分類される。
②歳出と歳入に関わる予算
③年度に1回だけ利用できる
④上院議事運営専門家(Parliamentarian)が法案内容を確認し、バード・ルールに適応しないものは除外される

2017年トランプ減税が2025年末に期限切れを迎えるが、それはこの財政調整措置で対処できるだろう。恒久化については、一部反対が起きそうだが、少なくとも一定期間の延長は党内の多くが承諾するはずだ。
また、党の政策綱領でも提案しているTrump Reciprocal Trade Actを財政調整措置に盛り込まれる可能性もある。ただ、共和党全員が賛成するとは思い難い。2019年にトランプ元大統領がメキシコからの輸入品に一律、関税をかけようとした時に一定数の上院議員は反対を表明していた。トランプ氏が通商法301条に基づく関税措置を実施することとは異なり、立法までは難しいだろう。

次に、インフラ削減法(Inflation Reduction Act )。これは、2022年に財政調整法案として可決させたこともあるので、財政調整措置として撤廃させることは可能だ。上下院の採決で、共和党は1人もインフラ削減法に賛成票を投じなかったことを考えると撤廃に動いても不思議ではない(※3)。
とはいえ、政策綱領には特に言及されていない。グリーンニューディールとインフラ削減法は一緒ではないはずだ。
一方で、インフラ削減法に盛り込まれたクリーン水素製造税額控除やCCSプロジェクトの投資税額控除、CCSのトン当たり控除など一部は継続を希望とする米商工会議所からのロビー活動もある(※4)。すべてが撤廃されるということはないと考えてよさそうだが、どの項目を撤廃するのかについてはこれから出てくることになるだろう。

共和党が多数党になれたとしても、トランプ氏と意見が一致しない上院議員は一定数いる(少なくとも5~6名)ことはおさえておきたい。
トランプ元大統領の弾劾裁判に賛成を投じた上院議員もまだ数名在籍している。マコネル上院院内総務は2024年末で上院院内総務は引退するが、2026年末まで上院議員を務める。握手して2024年総選挙に向けては足並み揃えるだろうが、トランプ氏の提案をそのまま受け入れることはないだろう。次期共和党の上院院内総務が誰になるかにもよるが、2024~2026年についてはマコネル上院院内総務の支持を得ないと法案を可決させるのは難しいと思う。

※1:2024 GOP PLATFORM
※2:Trump Vows to Boost Reciprocal Tariffs on Imports If Reelected
※3:H.R.5376 – Inflation Reduction Act of 2022
※4:Big Oil and the Chamber plan to defend Biden’s climate law from Trump