8/1-6の米議会 The CHIPS and Science ACT/INFLATION REDUCTION ACT

下院議会は、休会に入った。上院議会は、長期夏期休会まで残すところ1週間。
下院議会はリモート投票ができるが、上院議会は対面投票しか認められていない。COVID19陽性のため自宅療養となっている上院議員がいるため、本議会に出席できるか民主党50名が揃うかまだ微妙なところだ。

日付を囲う枠は、本議会の休会期間(non-legislative period)。打消し線は、本議会、pro forma session (非公開の小規模会議)を含めて、上院議員同士でなんらかの会合をもった日(月曜は予定が入る)。ソースはこちら

1)The CHIPS and Science ACT 

半導体製造助成金と科学技術支援法案とでも表現しておくとしよう。
半導体製造助成金のみを書いているメディアが多いように思えるが、これは大きくは2つのパートに分かれている。1週間前にブログを書いた時点では、半導体製造助成金$520億はほぼ確定で、科学技術支援についてはどれだけ上乗せされるかはわからなかった状態だった。

結果としては、ふたをあけてみれば5年間で総額$2800億(約37.7兆円) という巨額な予算にまで膨らんだ。上下院で可決しているが、バイデン大統領署名はまだ行われていない。おそらく、盛大な署名式典を開催したいのに、COVID19陽性が再度でたなどいろいろなことが影響して遅れているのだろう。いずれにしろ、近いうちに署名が行われると考えてよい。

法案の中身を大きく二つにわけて考えたほうがよい。一つ目は、The CHIP ACT。半導体産業への総額$780億の助成金・税額控除と考えてよい。
①と②は商務省管轄で進められていく。

①半導体製造インセンティブ($390億/5.2兆円)
半導体の設計、組み立て、試験、先端パッケージング、研究開発のための国内施設・装置の建設、拡張または最新にするための補助金。このうち、$60億は直接融資または融資保証に使用可能。
②半導体関連の研究開発($137億)
商務省管轄の半導体関連の研究開発プログラムへの予算充当。
このうち、$27億は労働力開発や国際的な半導体サプライチェーン強化の取り組みへの予算に充てられる
④5G・次世代無線に$15億
⑤半導体製造に関する投資に対して25%の税額控除導入(推定$240億相当

「半導体製造」といっても、どの分野なのか、設計・前工程・後工程なのかで大きく変わる。どの企業のどの分野にどれくらい助成金が入るかは、これから商務省が決定していくことではあるので、注視していく必要があるだろう。インテルが既に発表しているオハイオ州の新設工場では、この助成金を使いたいと宣言している、他の半導体企業も宣言はしているがどこがどれだけ獲得するかはこれからになってくるかと思われる(引用元:The Hill
また、この法案は、長い間、NY州選出シューマー上院院内総務が推進してきた。民主党の推進している「製造業を米国に戻す」を念頭に、NY州に半導体製造・研究開発の一大拠点を築こうと考えている。”This is the 21st Century’s Erie Canal”とまでシューマー上院院内総務は発言しており、NY州の製造業復活を考えている。そして、NY州に多くの雇用をもたらすとも豪語しているのだ(引用元: Chuck Schumer プレスリリース

次に、 科学技術支援については総額$1700億( さらに$825億増額することも 可能)が5年間で予算計上される予定だ。内訳としては、米国立科学財団に$800億、エネルギー省に$679億が予算として割当られる。

法案のサマリは上院の商・科学・運輸委員会から
https://www.commerce.senate.gov/2022/7/view-the-chips-legislation

INFLATION REDUCTION ACT

寝耳に水、とはまさにこのことだ。ちょうどFOMC政策発表が終わった数時間後にこのニュースが入ってきて、議会つき記者の誰もが驚いていた。シューマー上院院内総務とマンチン上院議員が、他の民主党上院議員を含めずに秘密裏にクローズドで進めていたことは周知されていたが、まさか民主党上院議員にさえもこの合意を事前に知らせてなかったというのは驚きだ。7/13(水)の米CPI発表でマンチン上院議員は「これ以上、財政投下してインフレに燃料投下すべきではない」と発言していたのに…(引用元:マンチン上院議員プレスリリース
バイデン大統領も交渉に失敗していたのに、シューマー上院院内総務が交渉にまさか成功できるとは…!裏では、サマーズ財務長官が説得にあたったとの話も出てきてるが、まだなぜこんな態度変容がおきたかは明らかになっていない(はず)

この土日でマンチン上院議員はメディアに多く出演して、今回の「INFLATION REDUCTION ACTは財政赤字を$3000億も減らし、インフレに対処する」と強くアピールしている。今回のINFLATION REDUCTION ACTは、$7390億の歳入増加と$4330億の歳出になっているのだ。詳細資料は、民主党上院ホームページからサマリ・法案原文とともに確認できる。

https://www.democrats.senate.gov/newsroom/press-releases/schumer-statement-on-agreement-with-senator-manchin-to-add-climate-provisions-to-the-fy2022-budget-reconciliation-legislation-and-vote-in-senate-next-week

◆歳入について
1) 15%最低法人税の案(税収見込み$3130億)
・対象は利益が$10億を超える大企業。ウォーレン議員が提出したレポートによると2020年に利益が$10億を超える70社の実効税率は15%未満だった。
・この課税が発生するのは2023年1月1日以降の利益から。
・Meta、Apple、Bank of America 、Oracle、Microsoftなどが対象になるはず。
2) 薬価引き下げ
メディケア(高齢者・障害者向け医療保険)でカバーされる医薬品の価格について連邦政府に交渉を義務付ける。インフレを超える薬価の大幅引き上げに対し医薬品企業に罰則を科す 。交渉は2023年から開始される予定。メディケア パートD 処方箋薬に年間$2000の自己負担上限を設定。
3)IRS(内国歳入庁の課税取り締まり強化)
4)キャリードインタレスト廃止。投資会社の運用マネジャーの報酬はキャピタルゲインになっているが、所得税にする。

◆歳出について
エネルギーセキュリティと気候変動対策 で$3690億

1)低所得者向けの支援
・低所得者層向け住宅のエネルギー効率を高める($90億投資)

・新規クリーンカー購入の税額控除($7500)を2032年まで延長。中古車に対してもの税額控除$4000(ただし初回の再販のみ)も追加。 メーカーごとの上限は撤廃される。
控除の条件は所得と車両価格。
-新車:最大$15万以下の個人所得(共同:$30万以下)
 中古車:最大$7.5万以下の個人所得(共同:$15万以下) 
-クレジットの対象となるクリーンカーには、価格上限あり
SUV・バン:$80000、普通車:$55000、中古車:$25000
また、この控除は2分割される。
1)バッテリーの50%以上が北米製造または組立てられたか
(年々比率をあげていき、最後には100%にする)
2)クリーンカーに使用される重要鉱物の40%以上が米国内またはFTA締結国で採取・加工・リサイクルされたか。2026には80%になるよう毎年10%上昇させていく(引用元:AP通信

今回、マンチン議員の要望により、EVだけでなく水素自動車も税額控除対象となった。 マンチン議員は以前から水素利用のハブ拠点をWV州に構築する動きをみせており、WV州で豊富な石炭を利用してブルー水素拠点を作りたいようだ(引用元:Motor Biscut

2)エネルギーセキュリティと国内製造促進
・太陽光パネル、風力タービン、バッテリー、重要な鉱物資源加工の生産税額控除(推定$300億)
・クリーンテクノロジー工場建設に投資税額控除(推定$100億)
・既存の自動車製造設備をEV製造に変更するための補助金($20億)
・EV工場建設のために最大$200億の融資

これはクリーンエネルギー投資にとって朗報。風力発電については、2022年着工分については投資税額控除は期限切れだったし、太陽光発電についても2024年以降、家庭向け太陽光パネル設置は0%になる。

3)経済の脱炭素
・発電を化石燃料からクリーン・エネルギーとエネルギー貯蔵に促進するための税額控除、助成金、融資制度($300億)
・鉄鋼やセメント工場などCO2排出量が多い工場からのCO2削減のための設備導入($60億)
・クリーンエネルギー技術投資($270億)


最後に、今後の流れとしてはまだ二つのハードルがある。
今回は財政調整法案を利用するので
Parliamentarianの確認を得る必要がある。これがいつになるかだ。
・財政調整法案で可決させるには民主党上院議員50名の賛同が必要になるが、マンチン上院議員と同じくらい民主党上院議員内でキーパーソンであるシネマ議員がまだINFLATION REDUCTION ACTのコメントを控えている。もしかしたら、反対するかもしれない。
彼女のことも考慮して、すでに反対しそうな税制は外れているが、焦点になるのは「 キャリードインタレスト廃止 」といわれている。以前は、 「 キャリードインタレスト廃止 」 の廃止を主張していたが、マンチン上院議員はこれを是が非でも実現したいようだ。意見の不一致があるため、 INFLATION REDUCTION ACTから外すことも考えられる。マンチン上院議員にとって財政赤字削減が重要なわけで、 キャリードインタレスト廃止 が外れたとしてもそこまで大きな問題にはならないとみられている。